遺伝子からわかることってなに?一人ひとりに合わせる未来の医療を知ろう

遺伝子って何?, 遺伝子の変化はどうやって起こる?

「遺伝子って何?」 "What are Genes?"

私たちの体は、目の色や髪の形、背の高さなど、さまざまな特徴を持っています。
これらはすべて「遺伝子」という情報によって決まっています。 遺伝子は、親から子へ、そしてそのまた子へ…と、ずっと昔から受けつがれてきた体の「設計図」のようなものです。
DNA この設計図は、「DNA」という物質の中にあり、たった4つの文字「アデニン(Adenine:A)」「チミン(Thymine:T)」「グアニン(Guanine:G)」「シトシン(Cytosine:C)」の組み合わせでできています。 DNAは「らせん」の形となり、「細胞」ひとつひとつの中に、とても小さく折りたたまれて保存されています。
DNAのA・T・G・Cの文字は、3つずつセットで、読み出されます。
この3つの文字のセットを「コドン」と言います。
コドン たとえば「A・T・G」というコドンはメチオニンというアミノ酸を作る合図となっています。「G・G・A」は、グリシンというアミノ酸を作る合図になります。
アミノ酸がたくさんつながると、たんぱく質ができます。
メチオニンは開始コドンと言って、たんぱく質を作り始めるスタートの合図にもなっています。
コドンによって、「この部分ではどんな材料が必要か」が正しく伝わるのです。
コドンはぜんぶで64種類ありますが、その中には「作るのを終わりにするよ!」という合図もあります。それを終止コドンと呼びます。
終止コドンが出てきたら、そこでたんぱく質をつくるのは終わりの合図。「ここまでがひとつのたんぱく質」という区切りになります。
体の中では、何万ものコドンが順番に読まれて、いろいろなたんぱく質が作られています。このコドンの3つの文字のセットは、まるで私たちの「ことば」のように体に合図を出しています。

遺伝子のしくみがわかってきたのは、わずか100年ほど前のこと。
そこから少しずつ研究が進み、今では私たちの体のひみつがたくさんわかるようになってきました。
人も犬も猫も生き物はみんな、それぞれが少しずつ異なる遺伝子をもっていて、遺伝子がもとになって体が作られています。
あなたの中にも、家族の中にも、大切な「遺伝子の物語」がつまっているのです。

「遺伝子の変化はどうやって起こる?」 "How Do Gene Changes Happen?

私たちの体を作る遺伝子は、親から子に受け継がれたり、生き物が成長していく過程で、少しずつ変わることがあります。
遺伝子が変化することを「バリアント」と言います。
バリアントは、まるで絵を描く時に、うっかりペン先がずれて線が変わってしまうようなものです。
バリアントが生じ、体の設計図が少し変わってしまい、体のつくりや働きに影響が出ることがあります。

バリアントは、大きく分けて2つの種類があります。
1つは、成長の過程で体を作る細胞に起こる変化で「体細胞バリアント」と言います。
内蔵や皮膚など、体のいろいろな部分を作る細胞が、光(紫外線)をたくさん浴びたり、化学物質に触れたり、年を取ることよって起こることがあります。
タバコやお酒を飲みすぎても変化が起こることが知られています。
この変化は、その人自身の体にだけ影響があり、子供には受け継がれません。
体細胞バリアント
もう1つは、生殖細胞、つまり卵子や精子などの細胞で起こる変化です。この変化は、子供に受け継がれる可能性があります。
「生殖細胞系列バリアント」と言います。
卵子や精子は、赤ちゃんを作るための特別な細胞です。もし卵子や精子の中の遺伝子に変化が起こると、その変化は赤ちゃんに受け継がれることがあります。 生殖細胞系列バリアント

遺伝子を見るには?

「遺伝子を見るには?」 "How Do We Read Genes?"

20年ほど前に生まれたシーケンサーという機械で、私たちは遺伝子、つまりDNAを一気に読み取ることができるようになりました。
人の遺伝子(DNA)は3,000,000,000(30億)文字もあり、これをシーケンサーで読み取ると、本の量に例えると図書館まるごとくらいになります!
この遺伝子のものすごい量の情報を、人の目だけで見て理解するのはとても大変。
そこで、シーケンサーで読み取った遺伝子のデータを、高性能なコンピュータやネットワークを利用して、解析する必要があります。

コンピュータを使っても、30億文字の遺伝子の解析は、非常に手間のかかる作業です。
そこで世界中の研究者・技術者が、遺伝子を解析するプログラム(アルゴリズム)を日々改良しています。
最近では、AI(人工知能)の技術も取り入れて、より早く、より高精度に、遺伝子のデータを解析できるようになってきています。

遺伝子検査の流れ

「どうやって検査するの?」 "How Do We Test?

遺伝子は体の細胞の中にあります。
遺伝子を調べるときは、血液やほっぺの内側の細胞、または調べたい体の部分の細胞を少しもらってきます。
細胞を細かくくだいて、DNAだけを上手に取り出していきます。
DNAがこわれてしまわないよう、やさしくていねいな作業をします。正確な検査のための大切なポイントです。
DNAは熱や紫外線などにとても弱いため、大事に保存しないと、すぐに分解してしまいます。
細胞だけでなく、取り出したDNAも、とてもていねいに取りあつかわないといけません。
取り出したDNAはとても少ないので、「PCR」という技術を使ってDNAを増やします。
DNAを温めたり冷ましたりすることで、1つのDNAが2倍、4倍、8倍…と、まるで魔法のように増えていきます。
最初にDNAが1つあったとすると、1回目のPCRの過程で2つ、2回目で4つ、3回目で8つ…と、あっという間にたくさんのDNAができるのです。

PCRで増幅されたDNAを、さらに調べやすい形に加工して、シーケンサーでDNAの文字を読み取ります。
シーケンサーは、DNAの文字を順番に読み取る機械です。
まるで本を読み進めるように、DNAの文字を1つずつ正確に読み取ります。
読み取った文字をコンピュータで解析して、どんな情報が遺伝子に含まれているかを調べます。

「遺伝子データをどうやって使うの?」 "How Do We Use Gene Data?"

たとえば、ある人の30億文字のDNAを調べたときに、遺伝子が体の特徴や病気につながるサイン(遺伝子の変化)があるかどうかを見つけるには、ほかの多くの人の遺伝子と比べて調べる必要があります。 このときに使うのが遺伝子のデータベースです。 世界中のいろいろな人の遺伝子をあつめた、大きな遺伝子の図かんのようなものです。 データベースの中には、世界中の人たちの遺伝子の情報や、どんな体の特徴があるか、病気と関係があるかなど、たくさんの情報が整理されて、記録されています。

このデータベースをつかって、たくさんの人の遺伝子の情報と比べることで、 シーケンサーで読みとった遺伝子の情報からどのような体の特徴や病気と関係するか、予想することができるようになります。

遺伝子の変化でおきる病気

「遺伝子の変化でおきる病気」 "Diseases Caused by Gene Changes"

遺伝子の変化(バリアント)は、様々な病気を引き起こすことがあります。 例えば、遺伝子に変化が起きて、体内で作られるたんぱく質がうまく作られなくなると、病気につながることがあります。 遺伝子の変化で一番よく知られている病気は「がん」です。 がんは、細胞が異常に増えてしまう病気ですが、その原因となるのは、遺伝子の変化であることがわかっています。 まるで、設計図に間違いがあると、建物がきちんと作れなくなってしまうようなものです。

また、一部の珍しい病気も、遺伝子の変化によって起こることがあります。 これらの病気は、生まれつき持っている変化が原因であることが多く、小さい頃から症状が出始めたりすることがあります。
最近では、遺伝子検査の技術が進化してきて、どんな遺伝子の変化が病気の原因になっているかを調べられるようになってきました。 そして、その結果をもとに、その人に合った治療法を選ぶことができるようになっています。

「遺伝子検査の未来と個別化医療」 "The Future of Gene Testing and Personalized Medicine"

遺伝子検査の技術は、どんどん進歩しています。 もっとたくさんの人が、より早く、より正確に遺伝子検査を受けられるようになると、ひとりひとりの体の違いに合った治療や予防を、普段の医療の中で受けられるようになります。 まるで、みんな同じ服を着るのではなく、自分に似合う服を選んで着るように、ひとりひとりに合った医療を受けることができるようになるのです。 このような、ひとりひとりの個人差に合わせた医療を「個別化医療」と言います。

例えば「がん」の病気では、「がんゲノムプロファイリング検査(がん遺伝子パネル検査)」と言う検査が、ここ数年で大きく広がりました。 この検査は、がん細胞の遺伝子を調べて、がんの原因となっている変化を見つけることができます。そして、「この人にはこの治療法が合いそうだ」と、その人にピッタリの治療法を選ぶことができるのです。

これまでの医療 個別化医療 個別化医療は、これまでの「同じ病気には同じ治療」ではなく、「その人の体質や病気の特徴に合わせて治療する」という新しい考え方です。 また、自分の生まれもった体の特徴や病気のなりやすさを知ることは、これからの健康を守るヒントになります。

今も、世界中でたくさんの遺伝子の研究が進められています。 私たちがもっと遺伝子を理解していけば、まだ始まったばかりの個別化医療を、さらにはもっと未来の医療を大きく変える力になるでしょう。

「知ること」から始まる未来。あなたも、遺伝子のことを少しずつ学んで、より良い世界を作る力になってみませんか?

シークエンサーとは?

シーケンサーとは? "What Is a Sequencer?"

シーケンサーは、DNAやRNAの塩基配列を高速かつ網羅的に読み取る装置です。 とくに次世代シーケンサー(Next Generation Sequencer: NGS)は、短い時間でとてもたくさんのDNA(遺伝子)同時に読み取ることができ、医療や研究のさまざまな分野で利用が広がっています。

NGSは、まるでたくさんの本を同時に読む機械のようなものです。 細かく切ったDNAひとつひとつに目印を付けて、機械で一気に読み取ります。処理のスピードはとても速く、数時間で何十億ものDNAの文字を読み取ることができます。

読み取り方にも種類があり、少ない遺伝子だけを読み取れるものから、人の遺伝子すべてを読み取れるもの、さらには何十人分も読み取れるものと、用途に応じて異なる種類、様々なサイズのNGSがあります。

数十年前までは、DNAを調べるのにとてもお金がかかりました。 NGSの技術が進んだことで、コストが大きく下がりました。 今は、人のひとり分のDNAを調べるのに、だいたい数万円でできるようになりました。

わたしたちの医療の中にも、

・「がん」の特徴に合わせた治療
・生まれつきの珍しい病気の診断と治療
・ウイルスや細菌の特定
・新しい薬の開発
・体質や病気の可能性を調べての予防

など、多くの分野でNGSはすでに応用されています。

シークエンサーの種類 シークエンサーの価格変化